芝刈りの歴史

芝刈機

芝刈りと芝刈機の歴史

芝刈りの始まり

オーストラリア最初のゴルフ場Ratho 1822年設立

そもそも、芝刈機が発明される前はどうやって芝生は刈られていたのだろう?
その答えは、オーストラリアにある。
その場所はタスマニア州の中ほど、ボスウェルにあるオーストラリア最古のゴルフ場、Ratho Farm Golf Links(ラーゾファームゴルフリンクス)。
日本でゴルフが始まる80年ほど前、1822年に開場したこのゴルフ場でフェアウエイ、ラフを刈るのは、芝刈機ではなく、なんと羊たちである。

1000頭ほどの羊を追ってフェアウエイを一巡りすると、長さはまちまちだがそれなりに低い草丈の芝草群落となって、そこでプレーをすることができる。羊たちが休む場所が自然に風除けとなりバンカーとなっている。これは英国でのゴルフの歴史そのものだ。

羊が入り込んで荒らさないようにグリーンは鉄線に囲われており、そこだけはきちんとモアを使って刈られているのが面白い。ちなみにこのゴルフ場では、木のシャフトで出来たクラブを使って40豪ドルほどで18ホールをプレーすることができる。

  • フェアウエイはヒツジによって「刈られる」

  • 刈り込まれた?フェアウエイ

  • プレー用のレンタルクラブ

  • バンカーもヒツジが作る

芝刈機以前 サイスの時代

芝刈機が英国で発明されるのは1830年のことだが、それ以前の芝を刈る道具は、サイス(Scythe)という名称の大鎌で刈っていた。

サイスは、いわゆる「死神の鎌」だが、使い方は首を狩るのではなくて、刃を地面に沿って滑らせて芝生や雑草の茎を刈るというもの。今の刈払機のように使う。研ぎ棒を腰にぶら下げて用い、作業時にも頻繁に研ぐのが普通のようだ。

サイスは今でも多くの国々で使われており、いろいろなスタイルのものが考案されている。地域によって形状が違うようでS字のシャフトのものがアメリカンサイスで、持ち手がまっすぐのものがイングリッシュサイスだそうだ。

R&Aゴルフクラブでもサイスを用いてグリーンなどを刈っていたという写真が残されている(USGAのFacebookサイトで確認できる)。おそらく、世界最古の現存する管理された芝生地であるサウザンプトンローンボウリング場(1299年~現在)のコートもサイスで刈っていたに違いない。

イギリスで毎年6月に開かれているサイスフェスティバルではサイスを使って人力で刈るのと、エンジン付き芝刈り機で刈るのとどっちが速いかという競技が行われている。YOUTUBEなどにいくつかの動画がアップされているが、人間が機械に勝つという動画は大変人気があるようだ。そうは言っても、人が機械と勝負できるのは100㎡程度までで、それ以上になればほとんどは機械が勝つのだが。筆者は、このフェスティバルをいつか見に行きたいと願っている。

  • サイス(大鎌;Scythe)
    刈払機の要領で薙ぎ払うように刈る

  • サウザンプトンオールドボウリンググリーンの銘
    1299年から管理されている現存する最古の管理された芝生

リールモアの登場

 世界最初のリールモア、別名シリンダーモアは、カーペットを刈るのに使われていたものを芝生を刈るのに転用したものだ。モアは芝刈機を表し、"Mower"で刈る物という意味。このリールモアは1830年8月に英国で特許を取得しており、設計図もきちんと残っていて今でも設計図に従って組み立てることができる。

イギリスのリバプールから北に鈍行電車で約1時間、サウスポートという街がある。2017年の全英オープンが行われたロイヤルバークデールゴルフクラブはこの街から南に2kmくらいの距離だ。そして、サウスポート駅から歩いて1kmくらいの場所にブリティッシュ・ローンモア博物館という、小さな博物館がある。

この芝刈機博物館はマニアしか来ない小さな私設の博物館だが、ここにはバディングの最初の芝刈機の実物を含めて数百の芝刈機の実物が展示されている。

展示されているエドワード・バディングの最初の芝刈り機を見てみると結構精巧な作りであることが分かる。人が手で押して刈るのだから、それなりの作りと切れ味がなくては簡単に動かなくなってしまう。人の力は約1/4馬力(190ワットくらい)とあるので、この力以上は使えない。前側から引けるように取っ手が付いているが、それでもせいぜい1/2馬力だ。余談だが、馬は1馬力よりもずっと強い脚力を持っており、サラブレッドは数十馬力が出せるという。

最初の芝刈機はリールモアである。実際の見た目は今のグリーンモアにごく近いと感じる。リールそのものは19インチ(480mm)と小さいが、下刃がきちんとあり、やはり挟んで刈っている。リール刃の駆動は重量のあるローラーが回るとそこから歯車を介してリールが回る構造になっている。リールと下刃の構造としては本質的に何も変わっていないことが理解できる。

バディングの設計した芝刈機は彼とジョン・フェラビーによって1830年5月に製造が開始され、販売されることになる。初期の芝刈機のうち2台は、リージェントパーク動物園とオックスフォードカレッジに納入されたという記録が残っている。なお、この時のキャッチコピーは「私の機械を使えば、8人分の仕事をしながら、楽しみつつ、健康的にエクササイズができる」と言うものだ。その後、いくつかの会社によってローンモアはライセンス生産され、その中で最も成功したのがランサム・オブ・イプスウィッチ社(ランサム社、後のランサム・ジャコブセン社)である。

この次に新型として出てきた芝刈機は、家庭用などで用いられる現在ハンドモア(手押し芝刈機)に酷似している。この型の芝刈機は先に述べたRathoのゴルフショップにも飾られていた。

動物が引くタイプのモア、いわゆるギャングモアはバディングの発明から10年ほど経って開発されている。こうしたギャングモアも動力源が変わっているだけで今とさほど形状は変わらない。スゴい発明とは言え、コアとなる部分の形がいつまでも変わらないのは何とも不思議なものだ。最初のモアと言い、新型と言い、歴史の中でこのスタイルが選ばれたのは一種の必然なのだろうか。

  • エドウィン・バディングの発明した最初のリールモア。1830年に発明された。

  • バディングの芝刈機は意外に精密?

  • オーストラリアRathoのショップに飾られているランサムのモア

その後の芝刈機・・・現在まで

 その後の芝刈機の歴史についても簡単に触れておこう。
しばらくは、主に動力源を変えての芝刈機の発明が続く。蒸気機関で駆動するモアがジェームス・サムナーによって発明されるのは1893年のことである。これが改良され後にSTOTT社によって販売されるようになった。

1902年ランサム社は最初のガソリン動力で動く乗用芝刈機を発明した。このエンジン付き芝刈機は見た目こそグリーンモアに似ているものの非常に大きく、普通乗用車くらいの大きさがあった。最初のウオークビハインド型のグリーンモアが発売されるのは1923年である。

ロータリー型のモアが発明されるのは、パワーのあるエンジンが発明される1920年代まで待たねばならなかった。この時代に現在の大手芝刈機メーカーが出揃ってくる。TORO社は1914年に The Bull Tractor Companyの名でトラクター向けエンジンメーカーとして設立されている。1900年に創業されたJacobsen社からは1921年にガソリン式リールモアが発売されている。ロータリーモアでは、パワースペシャリティーズ社が成功を収めることになる。この時代には、芝生市場として巨大な需要のあるアメリカに芝生関連機械開発競争の主舞台が移っていく。同時に芝刈機メーカーとしてもアメリカが台頭してくる事になる。

なお、日本では1915年頃に初めてトラクターが導入されてから農業機械開発の歴史が始まり、共栄社が最初の芝刈機を作るのが1959年だから、今しばらく待たねばならない。そうは言っても、日本では、日本初のスポーツターフであるクリケット場が現在の横浜スタジアムのある場所に1866年に造成され、根岸競馬場が1866年に開場、1876年には山手公園でテニスがプレーされており、芝草管理機器もこの頃同時に導入されてきている可能性があるのだが、このあたりの歴史はどうもよく分からない。折りを見て調べたいと思っている。

ローンモア博物館には1964年にカール・デールマンによって発明された世界最初のホバーモアも保存されていて"Flymo"という今日まで続く名称がついている。ホバーモアは回転刃によって機体を受けせながら芝の上を滑らせて刈る芝刈機である。「フライモ」が正しい名称であれば、なるほど誰もがフライモアと呼ぶわけだと合点がいった。また、同じ1964年には、トラクター牽引式のギャングモアがランサム社から発売されている。

最初の3連モア(トリプレックスモア)は米国で1968年、「グリーンキング」という名称でジャコブセン社から発売されている。1977年にはサザンヒルズCCで行われた全米オープンゴルフ選手権で3連モアを用いて当時としては最速と言って良いスティンプメーターで9フィートを出している。
しかし、3連モアは一世を風靡した後、刈高の高さとオイル漏れの問題を抱え、グリーンモアは再びウオークビハインド型に戻っていくことになる。

さて、現在はというと、日本でもロボットモアが販売されるようになってきた。これはロボット掃除機の芝刈機版で、欧米では主に庭の芝刈りに普及しており、日本では学校や公共施設の管理に使われ始めている。省力化や人手不足の問題がある中で、GPS技術やロボット技術を取り込んで芝刈機はさらに進化を遂げていくことだろう。

芝刈機の進化は最初から最後まで追うことができ、私のような素人でも調べれば明らかにすることのできる歴史である。筆者は今後もこの歴史への興味を失うことはないだろう。ここまで読んでくれたあなたも、いつかローンモアミュージアムを訪れて見てはいかがだろうか。

  • 英国ローンモア博物館の外観

  • 右上の赤いヤツが最初のホーバーモア

  • 英国ローンモア博物館内部

●参考リンク
British Lawn Mower Musum 英国ローンモア博物館
所在地 106-114 Shakespeare St, Southport PR8 5AJ イギリス
+44 1704 501336
http://www.lawnmowerworld.co.uk/

Southampton Old Bowling Green サウザンプトンオールドボウリンググリーン
The Green, Lower Canal Walk, Southampton SO14 3AX イギリス
+44 23 8022 0960
http://www.sobg.co.uk/community/southampton-old-bowling-green-10590/about-us

Ratho Farm
Mailing: PO Box 1 , Bothwell, TAS 7030
Physical: 2122 Highland Lakes Road, Bothwell.
+61 3 6259 5553
http://www.rathofarm.com/

サイスvs刈払機の対決(YOUTUBE動画)