世界の芝生研究はどこで行われているか?

芝生管理の歴史は古い。ローンボウリングに始まり、ゴルフで有名なオールド・トム・モリスはグリーンキーピングの父と呼ばれている。 では、現在の芝生の研究はどこでどんなふうに行われているか、この記事ではアメリカを中心に世界の芝生の研究事情について概観してみよう。

芝生の国アメリカ

  • USGA主催のターフグラスサイエンスレセプション ベアード博士の夕べ ASA-CSSA-SSSAジョイントミーティング カリフォルニア州ロングビーチ2014

  • パデュー大学のケール・ビガロ博士と共同研究している学生さん。ASA-CSSA-SSSAジョイントミーティング

現在の世界の芝生研究の最大の拠点は米国であるといってよいだろう。まず研究機関としては米国の多くの州立大学に農学部芝草学科がある。日本では各県が農業改良普及所を設置しているが、アメリカの州立大学は農学部を設け、農業の普及をすると400エーカーの土地がもらえるという法律があるため、州立大学には農学が設けられている場合が多く、エクステンションサービス(普及)も行っている。そのため、現場と研究が日本よりも近く、現場のキーパーとの受け答えに強い大学教員が多い。

また、USDA(米国農務省)がNTEP(全米芝草評価プログラム)を行い、市販品種のほぼすべてを評価している。日本で販売されるライグラスやベントグラスをはじめ、多数の草種について全米の二十数カ所で評価が実施されており、その評価結果がNTEPのサイトで確認できる。

米国の芝生研究は、学会活動も盛んだ。米国の農学系学会である米国農学会、米国作物学会、米国土壌肥料学会(ASA-CSSA-SSSA)が行っているジョイントミーティングは発表本数が3000本、研究者学生が1万人近く集まる壮大な大会になっている。この中のC-5がTURFGRASSに割り当てられており、この大会は大学院の修士論文発表会でもあるため、芝生関連だけでも例年300本以上の発表が行われている。芝生に関する最新研究はここで発表されることが多い。

  • GCSAAカンファレンスはセミナーが80-100本、セッションが10-20本ほど。全米ゴルフコース設計者協会などのセッションもある。

  • GCSAAセミナーの中にはフィールドツアーもある。このゾイシアツアーではブラジル五輪コースのキーパーも参加。ブレードランナーファームの圃場やオープン前のゴルフコースなどを視察。2015テキサス州サンアントニオ

  • GCSAAカンファレンスと対になったGISゴルフインダストリーショーでは特設ブースが設けられ様々なプレゼンテーションも行われている

米国のグリーンキーパー協会にあたるGCSAAでは例年、2月にゴルフインダストリーショーとともに教育セミナーが行われており80や講座余りの有料講座、30本程度の無料のセッション(と言っても参加費が必要だが)が行われ、CGCS(認定グリーンキーパー)の資格を授けている。同時開催されるGIS(ゴルフインダストリーショー)は世界最大の芝生関係の機械・資材の展示会で、例年500を超える企業、3万人あまりの参加者が集まる。この展示会にはゴルフトーナメントも併設されて、各種レセプション、学生が芝生に関する知識を競うターフボウルなど、毎年趣向を凝らした催しが開かれている。

スタジアムやスポーツフィールドではSTMA(スポーツターフ管理者協会)が認定するCSFMプログラム(STMA認定スポーツフィールドマネージャー)で各種教育が行われている。年に1度開催されるSTMAカンファレンスでも各種の教育セミナーが開催されている。

各大学では夏場にフィールドデーを行っている。他の大学からの講師を招いての講演と圃場の見学などをミックスしたもの。各大学の学部、卒業生、近隣のグリーンキーパーたちが参加し賑わいを見せる。一つ一つのフィールドデーはそう大きくはなくとも、こうした研究発表会が全米で行われているのはスゴイことだ。

ゴルフに関しては全米ゴルフ協会USGAが1894年に創立されている。芝生管理との関りでは、USGAグリーンセクションを1920年に開始、USGAグリーン方式で名高いが、このUSGAグリーンは、世界のサンドグリーンのデファクトスタンダードとなるUSGAグリーンを1960年に発表後、1965年、1968年、1973年、1982年、1989年、1993年、2004年に改定、そして2018年にも大きな改定が行われている。

USGAは英国R&Aと毎年協議してゴルフルールの改正を行っている。2018年は、大きな改定が実施され、2019年にはゴルフコースの各所の名称が変更になることも、ここで定められている。

芝生の故郷:英国

  • STRIの研究圃場

  • STRIの土壌分析試験室

  • STRIの研究棟

さて、芝生と言えば英国に触れないわけには行かないだろう。イギリスには、IOG(グラウンズマン研究所)の主催するSALTEX、BIGGAの主催するハロゲートウイークがある。SALTEXにはスポーツフィールド、スタジアム関連の企業が世界各地から集まってくる。IOGは1934年に設立された英国グラウンズマン協会から1969年に現在の方委になっている。

イギリスの芝生研究は、IOGとSTRI(スポーツターフ研究所)がリードしてきた。STRIは1921年に設立された芝草研究者60名を抱える芝生研究コンサルタント団体だ。本部はウエストヨークシャーのビングリーにあり、サッカーワールドカップや五輪、ウインブルドンや全英オープンゴルフなど各種のスポーツターフで調査や品種評価試験などを行っており、世界の芝生を使うスポーツに大きな影響力を持っている。

多くのスポーツが英国を起源としており、芝生管理の歴史も英国から始まっている。とくにスポーツからの良好な芝生への要請がIOGやSTRIのベースになっている。

IOG SALTEXでは主にスポーツターフ関連の展示が行われる。近年ではハイブリッド芝などの展示も増加

世界を驚かせた日本の研究

日本芝草学会主催ゾイシア国際シンポジウム 沖縄2015

日本の研究レベルは決して低くない。それどころか、日本の研究者たちは世界を驚かせるような研究も数多く行っている。近年では、2015年に沖縄で行われた国際シンポジウムでZoysia属の起源についての発表が行われて注目を浴びた。

近年の旱魃傾向から米国では散水に対して規制がかかった事情から乾燥抵抗性や省投入型の芝生が望まれるようになり、その中で乾燥に強く、管理に比較的手間のかからないZoysiaに脚光が当たってきた。ブラジルの五輪ゴルフコースでも、水質の悪いリオデジャネイロ近郊に耐えるゾイシアグラスがティー、フェアウエイ、ラフに採用されている。そうなると、古来からZoysiaについて親しみの深い日本の研究が注目されることは疑いがない。

世界有数の規模を誇る東海大学農学部のゾイシアコレクション 2012日本芝草学会秋季大会見学会

もともと、コウライシバのグリーンがあったのはほぼ日本だけで、2年ほど前に米国で18ホールがコウライというゴルフ場がようやく誕生したばかりである。少なくともコウライグリーンについては日本は世界に100年先行しているのだ。そして、東海大学農学部(熊本)や宮崎大学農学部に世界最大ともいえるZoysia属の遺伝資源コレクションがある。

こうした研究を普及する機関としては、グリーンキーパーにはなじみ深い日本芝草研究開発機構がある。この団体が行っている芝草管理技術者資格は、日本ゴルフ協会(JGA)の認定資格であり、本年からはスポーツ庁の後援となっているためグリーンキーパーには必須に近い資格になっている。

他の国々、そして南極にも芝生が

  • AGCSA オーストラリアゴルフコーススーパーインテンデント協会

  • タスマニアクリケット場 AGCSA見学会

  • オーストラリアゴルフ博物館 AGCSA見学会

オーストラリアやニュージーランド、カナダ、ドイツといった国々にも芝生に関する研究所がある。欧州芝草学会、オーストラリアゴルフ場スーパーインテンデント協会もある。近年ではバンコクにATC(アジアンターフグラスセンター)ができ、ここの所長マイカウッズ博士は日本でもおなじみである。規模や活動の活発さは国によって様々だが、とにかくバラエティに富んでいる。

これは日本の業績といってよいかどうか分からないが、1995年に日本の南極観測隊がオオスズメノカタビラ(ポアトリビアリス)を南極の昭和基地から25㎞ほど南で発見している。南極に自生する種子植物は2種類でイネ科はナンキョクコメススキ(Deschampsia antarctica)に限定されるので、これはどうも侵略的外来種らしいのだが、研究者と観光客の増加に伴い南極大陸ではナガハグサ(ケンタッキーブルーグラス)も増えつつあるという。

日本芝草学会見学会

そして、国際芝草学会(ITS)の大会ITRC(国際芝草研究カンファレンス)が4年に一度開催されている。2017年は米国ラトガース大学で開催された。次回はスウェーデンで開催され、そして次々回2025年は日本がホストカントリーとなる予定になっている。