ターフハウスってなんだ?

北欧には「ターフハウス」turf houseと呼ばれる建物がある。 屋根を芝で葺いてある家のことだ。 ちょっと茅葺屋根に似ているが、こちらは芝(草)を土壌ごとこそぎ取り、ソッド(切芝)ごと屋根に載せたものだ。 今回はこれを紹介したい。

芝生の屋根

これは「芝屋根」(ソッドルーフ sod roof)と呼ばれ、スカンジナビア半島やノルウエーでは、19世紀後半まで農村ではごく一般的なものであったという。
その後、瓦葺きの屋根が出来たため、徐々に数を減らし、今ではかなり少なくなっているが、絶滅したわけではなく、今でもその断熱性などから利用されている。

ターフハウスは木や石だけでできた建物よりも断熱性に優れ、北欧の過酷な寒さの中で快適な生活環境を作り出すことに成功している。
芝屋根は高い断熱性があるうえ、250kg/㎡程度の重さがあるため、その自重で防風対策にもなっている。樺の樹皮を敷いた上にソッドが並べられるために、防水性も確保される。降雨や降雪で400kg-500kg/㎡の荷重となる場合もあるという。

芝屋根の草が生い茂った外観は、ノルウェー語とスウェーデン語の torvtak、アイスランド語の torfþakと表現され、これはもしかするとturfの語源になっているのかもしれない。この語源に関する検証は今後の課題としておこう。

アイスランドのターフハウス

ターフハウスはアイスランドが有名だがノルウエーやフィンランド、デンマーク、カナダなどにも広く分布している。
アイスランドにはバイキングの時代(800-1050年ごろ)に、ノルウエーからの入植にともない広がったようだ。

樹木が豊富な場所とは大きく違い、アイスランドは北海の真ん中にある島国だから、樹木は貴重で建材となるような材木はなかなか手に入らない。もちろん屋根材だけではなく柱や壁を作る材料もなかなか手に入らない。木は内部の柱などに使い、外側は他の材料を利用している場合が多いようだ。

そこで粘板岩を板状にして柱や屋根材として利用したのがスレートだ。近年建材として使われる人工スレートはセメントに繊維素材を混ぜて固めたもので薄い板上にしたものだが、こちらは剥離性に優れる天然の粘板岩を割ると板状になるため、そのまま瓦や床材として使用される。スレートは世界中に産地があり日本にも多数ある。

ターフハウスの作り方

スレートの屋根

ターフハウスは、白樺などを梁として渡し、枝を並べて垂木とし、その上に小枝や樹皮を数層に敷いたところにソッドを並べていく。木の樹皮は数層に並べられ、その上に芝ソッドを屋根材として使うと、小枝を敷くことで内部の空気が動いて腐敗するのを防ぐのだという。白樺の樹皮の上にソッドを置く際に、第1層めは、裏返しに、つまり草の生えている面を下にして置く。この手法によって草の部分を排水層として水が通り、樹皮の腐敗が防げるのだ。

芝ソッドの厚さは15㎝が最適とされ、20㎝を超えると重量が掛かりすぎるとされる。すると、大体3層くらいのソッドを敷くということになる。スカンジナビア半島あたりでは、この厚さで1年を通して芝生が維持できる降雨量がある。一方、適度な厚みがないと干ばつ時に芝が枯れてソッドが崩れたり侵食を受けたりする。乾燥の厳しい地域では、Rhodiola rosea(イワベンケイ)、 Allium fistulosum (ネギ)、Sempervivum tectorum (ヤネバンダイソウ)などの乾燥に強い植物も最表層のソッドに混植される。

壁材としても芝生を使用

参照先には壁には、厚さ約15~20cm、約50cm×1.5mの芝ブロックを使用したという事例が紹介されている。芝ナイフと呼ばれる道具で切り出した芝ソッドは乾燥させ、軽くなって、コルク状になり扱いやすくなってから積み上げる。紹介された事例では、壁の厚さは2mもあり、芯の部分は砂利を入れて排水を取っていると言う。

分厚く切り出したソッドを本のように並べて積み壁にする方法もあった。泥炭の密度の高い粘土質のソッドはレンガのような材料として利用されていた。
最終的に最上部においたソッドに生えている芝生は根を伸ばして絡み合い、屋根全体に強度をもたらすことになる。

ターフハウスの歴史は今も受け継がれている

アイスランドのターフハウスは寿命が50-100年というから現在の住宅とそう変わらない。10世紀頃からあったらしいが、限られた資料からは詳しくはわからない。
アイスランドにはバイキングがノルウエーから入植したものと考えられており、初期のターフハウスは「バイキングスタイルロングハウス」(長屋と訳すのはちょっと違いますね)とも呼ばれる大型のものだった。30-40人が寝られるような大きさだ。それが、14世紀頃には徐々に小部屋が連結したような形になり、18世紀になると木製の壁を備えたものになるという変遷を遂げている。

ノルウエーのターフハウスは、歴史的にはより古く、主に各地の農家に残っており、オスロ郊外にある民族博物館に移設されて数十のターフハウスが屋外で実物展示されている。こちらは高床式住居や合掌造りのような古民家のイメージが強い。
また、ノルウエーで建てられているキャビンハウスなどでは、樹皮の代わりにプラスチックとフェルトを用いるもののソッドを使った屋根は今でも広く利用されている。

リンク先を是非見て欲しい。ターフハウスにも様々なバリエーションがあることが理解できるだろう。
筆者はいつかすべての国を訪れて自分の目で確かめたいと思っている。

秋篠

参考)
https://en.wikipedia.org/wiki/Sod_roof
https://en.wikipedia.org/wiki/Icelandic_turf_house
http://www.hurstwic.org/history/articles/daily_living/text/Turf_Houses.htm
https://guidetoiceland.is/connect-with-locals/regina/a-list-of-the-beautiful-icelandic-turf-houses-the-inheritance-of-generations-past