ベントグリーンを守る「殺菌剤プログラム」のご紹介(1)

「治療散布」から「予防的プログラム散布」へ

従来、『定期巡回による芝草病害の早期発見に基づく殺菌剤の治療的散布』が、病害防除の基本とされていました。

しかし、近年ではゴルフ場の芝草管理、特にベントグラスグリーンの管理において『殺菌剤プログラム』の考え方が広がりつつあります。

理由として

・コース管理予算の削減によるスタッフの減少
・気候変動と温暖化による病害発生の変化・増大
・厳しい経済情勢によるコース間の競争激化
・低刈・スピード要求などの芝草への管理ストレスの増大
・猛暑・多雨など天候によるストレスの増大

などの波の中で、『芝草を守る管理』の必要性が、高まっています。

殺菌剤プログラムは慢性的な病害や、その地域特有の病害の発生を抑制する目的で作成された予防戦略で、治療を目的とするものではありません。

予防散布は治療散布よりも殺菌剤の使用量が少なく、結果も良い傾向になっています。特に暑い夏の時期など芝草ストレスが高く、回復能力が低いときに力を発揮。適切な予防的プログラムは、かつての「手当たり次第の殺菌剤散布」とは一線を画す、新たなIPMの考え方といえます。

『東洋グリーン殺菌剤プログラム』は、この考え方と内外の最新の研究・現場での試験実績に基づき、ベントグリーン管理のための、現時点で最適なプログラムをご提案するものです。

マーチン博士の13番

サウスカロライナ州クレムゾン大学のブルース・マーティン博士は、夏に高温になる米国南部では、病徴が現れるころには既に菌密度の増加とベントグラスの体力低下が進み、病害からの回復が難しいという考えのもと、殺菌剤の予防的なプログラム処理により病害の発生を抑制する研究に長年取り組まれています。

同様の取組み・試験は、米国各地で様々な大学やメーカーでも行われていますが、博士が考案した「プログラム13番」は今もなお最も優れたプログラムとして米国で高い評価を受けています。

13番以外のプログラムも、各季節の病害を対象に組まれ似通っているのに、なぜ効果に違いが生じるのかについては不明ですが、特定の殺菌剤の組み合わせと特定のタイミングでの散布が、芝草の健康増進に繋がっていると考えられています。

状態が悪化した無処理区(左)に比べて、マーティン博士が組んだ「プログラムNo.13」(中央)はほとんど無傷。
同じ回数の殺菌剤散布をしていても、他のプログラムでは、No.13ほどの成績は見られなかった(右=プログラム12)

新病害と「ストレス病」

  • 「 ピシウムによる根の機能不全」は、春秋の低温時に感染したピシウム菌が根の機能が破壊することにより、夏場に大きな被害を起こす。

  • ピシウムルートディスファンクションが感染したベントグラスの根

わが国では2000年ごろから、ベントグラスの細菌病が大きな問題となっていて、とくに夏場の細菌病は症状が重篤で、発生後の殺菌剤処理の効果が低く、大きな被害を出しています。

植物病理学の世界では、細菌病は「ストレス病」の一種とされています。これは、健康な植物では問題にならないような弱い病原が、ストレスで弱った植物では重い症状を引き起こす現象です。維管束を詰まらせて植物を弱らせ、夏場の高温・乾燥ストレス時に大きな被害を引き起こすタイプの細菌病は、まさにこの「ストレス病」の典型と言えます。

また、炭疽病などの従来から知られている芝草病害でも、低刈や窒素欠乏などのストレスにより、その症状が重くなることがわかって来ました。

さらに、米国で近年報告された「ピシウムによる根の機能不全(ピシウムルートディスファンクション)」は、春と秋に弱毒性のピシウム菌(Pythium.volutum)がベントグラスの根に感染増殖し、根毛などの根の機能が一部破壊されるために、夏場の高温時にストレスに耐えられなくなり、枯死する病害です。

このため、発症後の殺菌剤散布は効果が低く、この菌の感染繁殖適温(12~24℃)である春秋の比較的低温な時期に、ホセチル、プロパモカルブ、シアゾファミドなど特定のピシウム剤を繰り返しローテーション散布し、菌の感染増殖を防ぐ予防散布が効果的とされています。この病害はわが国ではまだ未確認ですが、これも「ストレス病」の典型と言えるでしょう。

温暖化と、低刈などの管理ストレスの増大により、こういったストレス病は、今後さらに増大することが懸念されます。